「もし今、巨大地震が起きたら、私の家族は、そして高知の町はどうなってしまうのか?」
高知県が新たに公表した「令和7年度 南海トラフ地震による最大クラスの被害想定」には、私たちの想像を絶する過酷な現実と、同時に「事前に対策をすれば必ず命は守れる」という強いメッセージが込められています [cite: 1, 8]。
本記事では、最新の推計データを徹底的に読み解き、被害の全貌を明らかにします。そして、孤立やライフラインの断絶から命を守るための次世代の避難戦略「シェルターハブ」の重要性について詳しく解説します。
目次
1. なぜ今、新しい被害想定が発表されたのか?
高知県が2026年3月24日に公表した「令和7年度[高知県版] 南海トラフ地震による最大クラスの被害想定の概要」は、私たちの命を守るための最も重要な基礎資料です [cite: 1, 4]。
この被害想定の目的は、単に県民の不安を煽ることではありません。対象とする地震動と津波を推計し、県が進める南海トラフ地震対策行動計画や応急対策活動要領などの前提とすることです [cite: 3]。また、具体的な被害規模を明らかにすることで、市町村の防災対策や相互支援の検討に活用されます [cite: 4]。さらに、県民の皆様の防災対策への理解を深めるとともに、具体的な被害軽減効果を示すことで、自助・共助の取り組みを促進することを最大の目的としています [cite: 5]。
今回の推計は、「現状の住宅の耐震化率」や「現状の津波避難意識率」などの前提条件に基づいており、沿岸市町村を同一条件(避難速度、避難開始時間)で推計している点に留意が必要です [cite: 8, 9]。
2. 「最大クラス(L2)」と「発生頻度の高い地震(L1)」の違い
被害想定では、大きく分けて2つのシナリオが設定されています。
最大クラスの地震・津波(L2)とは
L2は、現時点の最新の科学的知見に基づく「発生しうる最大クラスの地震・津波」を指します [cite: 10]。現在の科学的知見では発生時期を予測することはできませんが、その発生頻度は極めて低いとされています [cite: 11]。しかし、万が一発生した場合、高知県の存亡に関わる壊滅的な被害をもたらします。
発生頻度の高い一定程度の地震・津波(L1)とは
一方のL1は、L2ほどの規模ではないものの、「発生頻度の高い一定程度の地震・津波」を想定したものです [cite: 14, 15]。これは、平成27年12月に内閣府が公表した断層モデルをベースに、過去の「安政南海地震」を再現する形で新たに断層モデルを設定し、推計を行っています [cite: 16]。
3. 【建物被害の全貌】全壊20万棟の衝撃(比較表あり)
最大クラス(L2)の地震が発生した場合、高知県内での建物被害は想像を絶する規模となります。総計で「204,000棟」もの建物が全壊すると推計されています [cite: 13, 22]。
以下の表は、平成25年度(H25)の想定と、最新の令和7年度(R7)の想定を比較したものです。高知県のどの地域に住んでいても、決して他人事ではないデータが示されています。
| 被害原因(全壊棟数) | H25想定 | 令和7年度(R7)想定 |
|---|---|---|
| 液状化 | 1,100棟 | 2,900棟 |
| 揺れ | 80,000棟 | 136,000棟 |
| 急傾斜地崩壊 | 710棟 | 1,500棟 |
| 津波 | 66,000棟 | 61,000棟 |
| 地震火災 | 5,500棟 | 3,600棟 |
| 合計 | 153,000棟 | 204,000棟 |
データを見ると、「津波」や「地震火災」による被害は前回想定より微減しているものの、「揺れ」による建物被害が80,000棟から136,000棟へと激増しています [cite: 22]。また、液状化や急傾斜地崩壊による被害も倍増以上に推計されており [cite: 22]、高知の複雑な地形で強い揺れが起こることの恐ろしさを物語っています。
4. 【人的被害のリアル】迫り来る津波と「逃げ遅れ」のリスク
最も直視しなければならないのが、人的被害の推計です。最大クラス(L2)において、犠牲者(死者数)は約23,000人にのぼると想定されています [cite: 17]。
しかもこれは「津波早期避難率が73%」の場合であり、もし人々の意識が低く津波早期避難率が20%にまで低下した場合、死者数は40,000人にまで跳ね上がると警告されています [cite: 17]。
- 建物倒壊による死者: 8,200人 [cite: 23, 33]
- 津波による死者: 14,000人 [cite: 23, 29]
- 急傾斜地崩壊による死者: 150人 [cite: 23]
- 火災による死者: 370人 [cite: 23]
特に高知県の沿岸部では、津波からの避難が文字通り生死を分けます。津波の逃げ遅れによる死者数は1,500人〜1,700人と推計されています [cite: 27]。さらに、高齢者や障がい者など「自力脱出困難者」に関する推計も出されており、現状では約11,000人から3,900人が困難な状況に置かれると予測されています [cite: 35]。
負傷者数についても、建物倒壊で41,000人、合計で42,000人と甚大な数にのぼり、発災直後の医療は完全にパンクすることが予想されます [cite: 24]。
5. ライフライン崩壊と「孤立する高知県」の現実
地震の揺れと津波が収まった後、生き残った人々を待ち受けるのは「インフラの完全な喪失」と「孤立」です。
- 上水道: 断水人口 63.3万人(断水率100%) [cite: 55]
- 下水道: 支障人口 30.3万人(支障率99%) [cite: 55]
- 電力: 停電軒数 44.1万軒(停電率97%) [cite: 55]
高知県全域で水も電気もトイレも使えない状態に陥ります。さらに深刻なのが集落の孤立です。土砂崩れや道路の寸断により、農業集落で353集落、漁業集落で29集落が孤立状態になると推計されています [cite: 54, 65, 63]。外部からの救助や物資の輸送が物理的に不可能な地域が、県内に無数に発生するのです。
また、これらがもたらす直接経済被害は実に20.5兆円(建物被害16.7兆円、災害廃棄物1.3兆円など)に達し [cite: 59, 60, 61, 62]、災害廃棄物は3,610万トン(うち津波堆積物410万トン)という途方もない量が発生します [cite: 56, 57, 58]。
6. 発生頻度の高い地震(L1)でも甚大な被害が発生
最大クラス(L2)の影に隠れがちですが、より現実的に起こり得る「発生頻度の高い地震・津波(L1)」でも、高知県は大きなダメージを受けます。
L1シナリオの被害想定は以下の通りです。
- 浸水面積: L2の18,438haに対し、L1でも8,301haが浸水します [cite: 67, 68]。
- 建物被害合計: 62,000棟(液状化2,800棟、揺れ35,000棟、急傾斜地崩壊1,400棟、津波22,000棟、地震火災1,200棟) [cite: 69, 72, 74, 79, 96, 97, 98, 99, 100]。
- 人的被害(死者数)合計: 4,700人(建物倒壊1,800人、急傾斜地崩壊110人、津波2,700人、火災60人) [cite: 101, 103, 105, 106, 107, 108, 109, 110, 111, 112]。
L2からL1に変わることで、震度7の面積割合は11.7%から0.5%へ、震度6強の割合は49.6%から7.3%へと減少しますが [cite: 70, 71, 73]、それでも大月町、宿毛市、土佐清水市、四万十市、黒潮町、室戸市、東洋町など、西から東まで広範囲の沿岸市町村が津波の脅威に晒されることに変わりはありません [cite: 85, 86, 87, 88, 89, 94, 95]。
7. 43万人の避難生活と「災害関連死」の恐怖
命からがら逃げ延びたとしても、高知県内では**約430,000人**が避難者となると想定されています [cite: 46]。そのうち、避難所へ身を寄せる人が273,000人、避難所以外(車中泊や親戚宅など)で生活する人が157,000人です [cite: 47, 48]。
ここで最も警戒すべきなのが「災害関連死」です。本資料では、東日本大震災(岩手県・宮城県)や令和6年能登半島地震(石川県)における災害関連死者数と最大避難者数の関係に基づき、避難者1万人あたり40〜80人の災害関連死が発生すると仮定しています [cite: 51, 52]。その結果、高知県内での災害関連死は1,300人〜2,600人にのぼると推計されています [cite: 50]。
地震や津波を生き抜いた命が、その後の過酷な避難生活(寒さ、暑さ、衛生環境の悪化、持病の悪化、ストレス)によって奪われてしまう。これが現代の巨大災害における最大の課題です。
8. 【希望のデータ】事前の対策で犠牲者は「4分の1」に減らせる
この膨大な資料の中で、私たちが最も注目し、希望を持つべきデータがあります。それは**「対策を講ずることで被害は大幅に減らすことができる」**という事実です [cite: 8]。
現状のままでは、揺れによる建物全壊は136,000棟、死者は8,200人とされています [cite: 30, 33]。しかし、建物の「耐震化率を100%」にした場合、全壊棟数は37,000棟にまで減少します [cite: 34, 38, 39, 40]。それに伴い、揺れによる死者数も約8,200人から2,000人へと、「約4分の1」にまで劇的に減らすことができるのです [cite: 28, 31, 32, 33, 36, 41]。
同様に、津波からの「早期避難率100%」を達成し、耐震化と組み合わせれば、津波による死者もほぼゼロに近づけることが理論上可能です [cite: 44]。
9. まとめ:未来の高知を守るために今できること
令和7年度の高知県版被害想定は、見たくない現実を突きつけてきます。しかし、これは「変えられない未来」ではありません。
家屋の耐震化を進めること(自助)、地域で声を掛け合って避難する体制を作ること(共助)、そして、過酷な避難生活から命を守る「シェルターハブ」を地域に整備していくこと(公助との連携)。これらのアクションを起こすことで、23,000人という推計死者数を、限りなく減らしていくことができます。
南海トラフ地震は、いつか必ずやってきます。あなたの住む地域で、どこが命を守る場所になり得るのか。家族の集合場所はどこか。今日のこのデータを出発点として、ご家庭や地域でぜひ話し合ってみてください。